スランプとは別物?イップスとその原因について

ゴルフ競技者のうちおよそ25~50%の人に起こると言われている、「イップス」。またイチロー選手がかつてイップスを発症したことがあるとカミングアウトしたことから、ゴルフだけでなく野球やその他様々なスポーツ選手にも起こり得る障害として広く認知されるようになりました。

イップスは本人だけにしかわからない症状が続きますので、日常生活では問題なく生活ができるのはもちろん、遊びなどであれば気軽に出来るものの、いざ試合が始まると出来なかったり、ここ一番で外してしまったりとスポーツマン泣かせの病気です。

しかも後述していきますが、イップス真面目で頑張り屋な方に起こる機会が多いのも特徴で、普段から色々なことを考えすぎてしまうという方は、練習に集中しすぎない、身体の動きなど自然に行っているものを意識しすぎないなどに注意しましょう。それでは記事を始めてまいります。

イップスとは

イップスとは、簡単に言えばそれまでできていたパフォーマンスができなくなってしまう症状のことで、そう聞くと「スランプ」と同義語のように思えるかもしれませんが、実は似て非なるものです。というのもイップスの場合は、例えばゴルフであればスイングの途中で止まってしまう、野球投手であればストライクを投げるつもりが暴投してしまうなど、特定の動作自体が行えなくなるのに対し、スランプはその動作自体は可能で、それなのに思うような結果が出せない状態のことを言うからです。つまりイップスの場合、物理的に筋肉を思うように動かすことができなくなることが直接的な原因で、多くの場合体の一部のみに症状が現れる局所性のものです。

イップスの原因・メカニズム

筋肉は脳、特に大脳基底核の働きによってスムーズに動くよう作られているため、イップスはこの部分に異常がある「ジストニア」という病気の1種と考えられています。中でもアスリートや音楽家がかかるジストニアは「職業性ジストニア」と呼ばれており、医学的にはイップスと職業性ジストニアは同じもの。ただし脳卒中など器質的な原因がハッキリしている二次性ジストニアとは異なり、職業性ジストニア、つまりイップスが起こる具体的なメカニズムは分かっていません。

一般に言われているのは心理的、精神的なものが原因で、例えば野球投手が一度暴投しデッドボールを当てて相手にケガをさせてしまったなど、1度の失敗がきっかけとなって発症すると考えられています。これがいわばトラウマとなり、投球時に「また暴投してしまったらどうしよう」という不安が逆に暴投する自分の動作を強くイメージさせてしまい、結局そのイメージ通りに筋肉が動いてしまう、というわけです。ゴルフや野球の投球、テニスや卓球のサーブ時など、スポーツの中でもある程度「物事を考える余裕」があるプレーで起こりやすいという事実も、この推測を裏付けるものと言えるかもしれません。

加えてアスリートや音楽家のようにいつも同じ動作を反復、何度も繰り返すことで脳神経に何らかの影響が及ぶと考えられており、前述のようにトラウマとなる出来事が引き金となってイップスの発症に至る、とも言われています。

まとめ

今回はアスリートからアマチュアまで悪いパフォーマンスのイメージしかわかず、普段していた何気ないことも出来なくなってしまうイップスについて記事を書いてまいりました。文中にもあるようにイップスの主な原因は心理的・精神的なものですから、死に関係することではないものの、一生懸命に練習した成果を存分に発揮できないのはつらいものです。

イップスが起こる方には例えば以下のような特徴がありますので、ご自身に当てはまるという方は普段から意識して考えすぎてプレーしないようにしましょう。

イップスを生じやすいのは真面目で責任感が強く、心優しい選手ほど生じやすく、気を使うが、普段はあまり緊張しない人が多く、逆に緊張しやすい人はならないことが多いです。医師へのアンケート調査でスポーツで51%が経験したという報告もありますので決して稀な症状ではありません。治療としては失敗した場面を直視して、徐々に成功体験を積み重ねること、医学的には慢性腰痛でもエビデンスのある認知行動療法になります。症状のきっかけによって考え方が動かされ、感情や行動が出てくる(認知再構成)ので、その考え方を変化させることで結果として出ている症状(行動や感情)へ介入して、再発を予防します。イップスになって、今まで当然できていたことが出来なくなり、周りの理解が得られないことが一番辛いことでありますが、これには本人がイップスになったことを自覚して(あるいは周囲のコーチなどが把握して)周囲に打ち明けたり、周囲の理解と手助けが重要になります。スポーツの場面だけでなく、普段できていた仕事、手技が出来ない場合に一人で悩まずに、イップスではないか?という意識を持っていただければ幸いです。

引用:とよた整形外科クリニック

https://www.toyotaorthopedicclinic.jp/report/3296